![縁を手縫いする畳職人](https://karuta-japan.com/articles/tatami/img/kj_tatami_2.jpg)
大胆かつ繊細。い草の香りただよう畳職人の世界
昔から現代にいたるまで日本の快適な暮らしを支え続けている畳。お茶室や日本家屋をはじめ、祖父・祖母の家に和室がある方などには馴染みがあるのではないでしょうか。
落ち着いたい草の香りただよう部屋でゴロンと寝転がればリラックスでき、たまった疲れを和らげてくれそうな気すらします。
〜職人の技〜
Traditional technique
昔から現代にいたるまで日本の快適な暮らしを支え続けている畳。お茶室や日本家屋をはじめ、祖父・祖母の家に和室がある方などには馴染みがあるのではないでしょうか。
落ち着いたい草の香りただよう部屋でゴロンと寝転がればリラックスでき、たまった疲れを和らげてくれそうな気すらします。
畳は夏は湿気が多く、冬は乾燥するという日本の特有の環境ではぐくまれた、先人の知恵の結晶です。湿気を調整しつつ断熱性や保温性に優れており、天然素材の恩恵をあますところなく実感できます。
今回は、日本が誇る敷物「畳」の伝統を今に守る職人さんに生取材。畳のいいところ、たいへんなところ、工程などをNG無しで見せていただきました!
今回、取材に快く応じていただいたのは、高岡屋 常川畳店の五代目 常川直喜さんと、息子さんで六代目の泰平さん。高岡屋 常川畳店は新宿区四谷で創業し150余年の老舗です。
大量販売に重点をおく量販店と異なり、一枚一枚の畳にかける手間を惜しまず、経験と熟練の職人技で畳を最高の状態にしてくれます。
工房に入ると、い草の香りで満たされていて祖父母の家に帰ってきたような安心感を覚えました。「職人」と聞くと連想してしまいがちな無口で頑固一徹な雰囲気はなく、
終始笑顔のご対応でした!
しかし、お二人とも畳技能士に認定されている現代の職人さん。今回は、古い畳を新品のようによみがえらせる「表替え」の工程を取材させていただきました。
畳職人さんが使う道具の一部をご紹介します。
これらの道具を作る職人さんも年々減っているという。
1:待ち針
畳表を仮止めしておく際などに使用。洋服で使う待ち針と違いとても大きい。
2:目押し定規
縁を縫い付ける位置に印を入れる道具。四角形それぞれの辺のサイズが異なる。
3:しめ鉤・縁鉤
糸を締める工程や、解く工程に使用。
4:くわえ
畳の厚み測るための道具
5:手当て
畳を手縫いする際、手にあてがい縫い針を押し込む際に使う。
6:わたり
縁幅を決めるための道具。
7:小包丁
縁に縫い付けられた糸など、細かい作業に使う。
8:かまち包丁
畳床の框(かまち:畳の短いほう)を断つ。横方向は藁の繊維に対して直角に断つため、はば(縦方向)よりかたく、力がいるため。
9:落とし包丁
畳床の幅(はば:畳の長いほう)を断つ。かまち包丁と違い、敷き詰められた藁の方向にそって断つため、かまちより断ちやすい。
その他:
・ながさ(ながい定規)
畳の丈(長さ)を図る定規
・はば(短い定規)
たたみの幅をはかる定規。ものによって印に差分があるため、他の職人さんと仕事をする際は、定規を統一する作業が不可欠。
※地域によって名称等が違う場合がございます
職人さんへの取材
今回は、五代目・直喜さんと共に、常川畳店を支える六代目・泰平さんにお話を伺いました。
写真では表替えの工程を説明していきます。
■常川畳店さんは歴史がありますね。
創業150余年の伝統があります。もともとは畳の材料屋をやっていましたが、いつしか畳自体を扱うようになりました。
■泰平さんが6代目を襲名して、どれくらい経ちますか?
泰平さん:今9年くらい経ちます。
■なぜ、この仕事を継ごうと思ったのでしょうか?
泰平さん:兄がいるんですけど、兄は継がないっていうから、じゃーおれが、っていう感じで継ぎました(笑
■もともと「やろう!」と思っていたわけじゃないと
そうですね。今は楽しくやってます。
■この仕事をやってよかった、と思うときはありますか?
お客さんが喜んでくれた時は素直に嬉しいです。こちらはお金払っていただいているのに「ありがとう」と言ってもらえると「やっていてよかった」と思います。
■逆に、これは大変!と思う時は?
意外と力仕事な一面があります。縫い付けるために畳に針を通したりしますが結構力がいります。そのための道具が手当てで、手の平につけてグッと押さないと貫通しない。
■畳職人って力仕事なんですね。
畳って意外と重くて30kgくらいあるし、大きい。例えばマンションの上層階まで階段で運ぶ時は結構たいへんです。
畳職人になりたての頃は持てなかったこともあります。なので畳職人は握力すごいんですよ。親父(5代目直喜さん)の全盛期は握力80kgあったとか(笑
※握力80kg=りんごを握りつぶせるといわれます。すごい!
■畳も通常の物から高級品まであるようですが、違いを教えてください
高級な畳表は目がしっかり詰まっているので耐久性が違います。あと使うほど味わい深い色合いに変わりますが、いい畳表は「飴色」に変わっていきます。
あとは、使うい草の箇所も違います。い草の根本の方を中心に先端は使わないと丈夫なものになります。逆に先端ギリギリまで使うことで安価に抑えたりもしますね。
■色々な柄もありますよね
畳表にも編み方がちがったり、模様がついたものもあります。
色々な表情がありますので、好みのものを選ぶ楽しみもありますよ。
■畳を求めるお客さんはどのような方が多いですか?
メインとなるのはお茶室やお寺ですが、一般のお宅の方も結構いらっしゃいます。畳は気持ちが良いので一度使うと、長く愛用してもらえます。
■常川畳店さんは基本手仕事ですよね?
うちは即日納品をやっていて。午前中にお部屋の寸法をはかって、午後には納品するようにしています。
■手仕事ならではのポイントを教えてください。
畳一枚一枚にしっかり対応できるところですかね。量産品だと、畳のへこみまで補修できない場合があるんです。
あと重要なことなんですが、ちゃんとお部屋の寸法をはからないと畳と壁の間に隙間ができたりする場合があります。
■同じサイズの畳なら隙間はできないのでは?
実は家の壁って真っ直ぐじゃないことが多いんです。年数が経過した家だと家そのものが歪んいたり、そもそも家の骨組みに使われている木自体が歪んでいたりする。
大抵の家では畳を真っ直ぐにつくると隙間ができると思いますよ。
■その隙間に対応するととても大変そうです。
隙間を作らないために壁のゆがみに合わせて畳自体を調整するんですよ。畳の寸法は「本間」を基準としますが、専門用語でいうと「本間つ」などと言って微調整します。
■「本間つ」とはなんでしょう?
「本間つよめ」という意味で、「つよめ」というのは「ちょっと大きく」という意味なんです。ちょっと大きく、といってもタコ糸一本分くらいの差ですけど。
■そんな変わらないような。。。
タコ糸一本って大したことないように思えるんですが、実際に畳を敷くと、この差が2,3㎜の隙間となって一般の方にも分かるくらいの差がでてきます。
最近はレーザーで計測するなど便利な道具もありますが、レーザーは照射器から離れるほど線が太くなるのでやはり誤差がでてしまうことがあります。紐を使ったサイズ調整はまさに職人の知恵といえます。
■畳の世界に、大胆さと繊細さを感じます。
畳を縫ったりする工程は身体全体で動くので大きくて大胆にみえますが、実はかなり精度が要求される緻密な作業なんです。わずかなズレを見逃さず、個々の部屋にぴたりとおさめるのは、手仕事の良さだと思います。
■修復してまた使いたいと思わせる魅力が畳にはあるんですね。
い草を使った畳は夏は湿気が多く、冬は乾燥する日本の環境にピッタリなんです。湿気の調整をしてくれるし、滑りにくいから赤ちゃんやお年寄りにも安心。
それに畳ってリラックスできる気がします。これこそ日本特有の気候の中でより快適な生活をおくるために生まれた伝統の床材・畳の魅力のひとつだと思います。
■最近では畳を使う家も少なくなってきました。
日本家屋も減りましたし、和室のあるマンションも減ってきました。畳職人を始め、畳の素材や畳を作るための道具を作る職人さんも減っています。
い草を作る方も減っていて、昔は岡山県産や広島県産なんかもたくさんあったんですが、現在はほぼ熊本産のい草が使われています。い草って土から作ると育つまで2年はかかりますし、育てるのも難しいんです。
■我々も畳の良さを伝えていきたいと思います!
畳は日本でうまれ、育まれた素晴らしい文化の一つです。畳の良さや快適性を知っていただければ、きっと和室がほしくなると思います。
和室ではなくてもお部屋の一部に敷くこともできますので、快適な生活に一役かってくれるはずです。ぜひ畳の気持ちよさを体感してください!
自然の素材を紐一本の精度で調整する職人技は圧巻でした。
そしてなにより、い草の香りは心が落ち着きます。そんな中で働いていらっしゃるからか、常川さん親子はとても穏やかで気さくな方でした。
現代ではビニールや和紙(ビニールコーティング)をつかった畳なども普及してきましたが、
サラッとしつつも温もりある触り心地や懐かしい香りは、自然素材のい草ならではではないでしょうか。
お子さんと遊ぶスペースやゴロンと寝転がるスペースなどにもオススメの畳を、
ぜひ実感してみてください!